2008年5月27日火曜日

まんが 考

先日、日本の漫画界のスーパースター、井上雄彦の展覧会「さいごの漫画展」が上野の森美術館で始まった。展覧会初日、美術館前には長蛇の列ができていた。何を隠そう、僕もこの展覧会に朝一に行ってみた一人だったが、列のあまりの長さに日を改めることにしてしまった。たった一年とはいえ、日本を離れてみると、住み慣れた街にいつの間にか取り残されたような錯覚を覚えることがある。俗に言う「浦島太郎」というやつだろうか。僕の場合、この浦島気分を一番感じるのは漫画だった。

日本ほど漫画が浸透した社会は他にないのではないかと思う。それくらい書店には漫画が並んでいるし、何よりその種類に驚かされる。実際、日本の有名漫画がポルトガル語訳されているものもあった。コミックは外国ではあまり価値がないと思われているとよく言われるが、それは本当だと思う。実際、僕が同年代のポルトガル人に英訳の漫画を紹介したが、一切取り合ってくれなかった。英語だったからだろうか。

それは置いておくとして、最近、この一年間に進んだ物語を読むべく、数冊の漫画を買った。その中でも井上雄彦の「バガボンド」はすごいと思った。この作品は吉川英治の「宮本武蔵」が原作となっている。漫画家は一つの作品が長く続く場合、物語が進む中で、作家自身も成長していくわけだ。特にキャラクターに本当に命が吹き込まれていくように最初の頃と終盤では顔つきが変わってきたりする。

この作品はそうした画力もさることながら、キャラクターの感情表現やストーリーの展開もすさまじい。よく、映画を見て泣くというけど、読んでいてそういう感動に近いものを感じる。(泣いてはいませんけど。)

特に「バガボンド」の場合、時代劇なわけだから、もう400年近く前の出来事をよくこんなに細かく描けるものだと思う。造られた世界ではあるけれど、すごい力でもって引き込んでくれる。特にこの漫画ですごいのは武士とか日本の精神みたいな部分をすごく丁寧に描いている部分だ。現代に描かれた宮本武蔵。その世界の中に誰もが自分自身を投影してしまう。

そんな気分にさせてくれる漫画はやっぱり、もう、美術じゃないかと思う。

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