2008年3月3日月曜日

斜視の独り言


「母さん!僕、本を読んでいると、突然文字が遠ざかったんだよ!今まで20センチくらいのところにあった文字が15センチくらい僕から離れていったの。 」

僕は子供の頃、この経験をよく、した。
特に活字が羅列する小説などを読んでいる時に限って、こうしたことが起こり、集中力が高まって文字の世界へ没頭し始めた頃、突然字図らが僕から遠ざかっていく。僕は何か良くない事の前触れのような気がして怖くなると、本を閉じた。

僕は自分の右目が斜視だと知って、鏡の前に立つ。僕らは鏡の前で互いに睨み合いながらも、彼の左目はゆっくりと外へと、離れていってしまう。
斜視であることに自覚的になった頃、子供の頃の経験に自分なりの解答を一応、見出した。

最近も時々起こるこの体験は、何かに、特に読書が中心だが、集中する時に起こる。

のめり込む一歩手前かのめり込んだ一歩先で、不意に自分の行為を考え直してみる、そんな事だと思う。子供の頃の僕はそのまま読書を止めたが、今ではそのまま読み続けることもある。

リスボンの行き慣れたカフェで、浅く腰掛けた椅子から背後に広がる景色を眺めてみる。
逆さまに見たリスボンの見慣れた景色が今まで見たこともないような場所に見えて、そのまま写真に撮った。
あの時、多分、僕の右目はどこかを泳いでいたに違いない。

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