2007年6月17日日曜日

ドウロ河のほとり

 さて、東京乃木坂ギャラリー・間でも展示をやっているアルヴァロ・シザの事務所を見学させてもらった。ポルトの中心地から少し離れた、ユースホステルに泊まった僕たちは、シザの事務所がユースホステルから意外に近いと聞いて驚いた。雑誌や作品集で見るシザの事務所はポルトの市街地から大分離れたところを僕たちに連想させていた。
 ドウロ河沿いの道をユースホステルから車で5分ほど東に向かったところに、車を止めると目の前の緩やかな斜面に、シザの事務所を見つけた。写真で見たときはそれ程気にならなかった建物の外観も、実際は「コ」の字型のプランの片側の先が斜めになっている。そういうデザインのせいか、平行に配置されている単純な建物もどこか違って見える。

 玄関の無表情な門の前で恐る恐るインターホンを鳴らしてみる。「どうぞ」と門があくと、数段の階段を上がり、ひょっこりと地面の上に出た。雨続きの旅で珍しく晴れたこの日は夏日だった。不意に塩素の匂いが鼻につく。僕らはそれに気付くと夏のプールを思い出して、同じ連想をしたことに喜んだ。

 事務所の入り口は建物の裏側といった感じで窓一つない。そっけない扉を開けて事務所に入ると夕方の柔らかい光が事務所の中に差し込んでいた。僕たちは慣れない場所でどう振舞っていいのかわからずきょろきょろしていると、そんな緊張をほぐすように案内が始まった。

 外から見ると少し控えめに見えた小さな窓は、中で見るとかなり大きめの物だった。各階で等間隔に並んだ窓からは全てドウロ河が見える。僕が想像していたよりも、部屋はずっとたっぷりとしている。ポルトガルの建築の代名詞ともなっているシザの事務所は、多くの計画案であふれていた。僕は模型を介して丁寧な説明をしてもらいながら、家具の配置が気になった。

 机より高い家具が少ないその部屋では、壁が良く見えた。いろいろな計画の図面やら何やらが壁に張ってある以外は、本棚も天井まであるような大きな物は少なかった気がする。そしてそのことがこの部屋に不思議な広がりを持たせている気がした。

 帰り際、夕飯に誘ってもらったが、あいにく日中の強い日差しに疲れた一人をホテルに置いてきていた。僕たちは案内してもらったことに軽くお礼を言った後、ひょっこりと出てきた地面へとまたもぐっていく。僕は階段を下りきったところにある門に、何となく違和感を覚えながらも、シザの事務所を後にした。

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